流鏑馬
雅は日光に流鏑馬を見に行った。
雅は毎年、流鏑馬を見に行っている。
今年の流鏑馬は雨だった。
雨の中、武士の衣装に扮した男たちが馬に乗って、矢を射る。
三番目の男が落馬した。
男は頭を地面に直撃し、首の骨を折って、即死した。
流鏑馬は中止になった。
雅は決心した。
乗馬を滝山城趾にある乗馬クラブで馬を習うことにした。
雅は毎週、休みの日に、乗馬クラブに行った、乗馬を習った。
一年後、雅は日光の流鏑馬に出た。
雅の順番はしんがりだった。
雅は緊張し、心臓はドクドクと高鳴っていた。
雅の順番が来た。
雅は馬に跨がると、馬の尻を鞭で叩いた。
馬は駆け出した。
一中。
二中。
三中。
雅は完璧に矢を的に射っていく。
そこに、男の子が観客の中から飛び出してきた。
雅は手綱を引いた。
馬は前足を上げ、大きくしなった。
雅は馬から振り落とされた。
幸い、右肩から地面に落ちて、肩を捻挫しただけで済んだ。
雅の流鏑馬への情熱は怪我してからも、変わらなかった。
雅は毎年、日光の流鏑馬に出た。
雅は定期貯金を下ろし、自分の馬を買った。
雅は馬に、赤馬と名前を付けた。
赤馬は、非常に気性の荒い馬だった。
雅はそんな赤馬の性格に惚れた。
毎週、赤馬に乗るのが、楽しみだった。
その内、赤馬は雅に心を許すようになってきた。
懐いてきた。
そんな赤馬を雅は大変可愛がった。
毎日、仕事が終わると、乗馬クラブに預けている赤馬に会いに行った。
翌年の流鏑馬。
天気は雨。
雅の順番はしんがりだった。
赤馬の体調はあまり良くなかった。
三日前から下痢が続いていた。
雅は流鏑馬を諦めようかとも考えたが、赤馬は流鏑馬があることを知っているようで、気迫はもの凄かった。
赤馬の順番が来た。
雅は赤馬の尻を叩いた。
赤馬が勢いよく走り出す。
一中。
連続して、的を決めていく。
最後の的が見えてきた。
雅は矢を射る準備をした。
雅の目が一瞬霞んだ。
軽い目眩がした。
一瞬気を失った。
が、雅は気迫で矢を射た。
そして、流鏑馬が終わると同時に、赤馬は地面に倒れ込んだ。
雅は赤馬を獣医に見せたが、その時既に赤馬の息は絶え絶えだった。
その晩、夜中の12時。
赤馬は息を引き取った。
それ以来、雅は流鏑馬はしていない。
流鏑馬を見に行くこともなかった。
週末の競馬を見ることはあったが、馬に乗ることは死ぬまでなかった。
雅にとって、馬は赤馬だけだった。